残酷で愛しい娘マヤ
2007年 01月 15日
「泰さん、腰が曲がってきたね」
「何を言うか! 着替えを山のように抱えて階段を降りれば、誰だって中腰になるよ」
子供は時にして残酷だ。「腰が曲がってきたね」と言われて、思わず抗弁した自分が恥ずかしい。
「泰さん、髪の毛も白くなったよ。おじいちゃんみたい」
娘を愛していなければ、児童虐待、子殺しはここういう瞬間に発生するのかと思った。
「お前が苦労させるからだ」
またもや苦しい言い訳。
「おじいちゃんみたいって言ったのは泰さんがおじいちゃんということじゃなくて、マヤのお爺ちゃんも髪の毛が白いでしょ。だからおじいちゃんみたいって言ったの」
マヤは僕の落ち込みを察して救いの手を出したつもりだろうが、まったく救いになっていない。
娘に年寄りと思われたくなくて、この間も突然、僕の腹を「バシッ、バシッ、バシッ」と力一杯拳骨でパンチを喰らわせてきたが、僕は腹に目一杯力を入れて懸命に耐えた。
マヤはさんざんデカ腹に攻撃を加えたあげく
「ああ、スッキリした。ストレス解消!」
と言って嬉しそうに笑った。僕も腹の筋肉が少々痛んだが、まだまだお前のパンチぐらいで音を上げる泰さんじゃないぞと平気を装ったものだ。
「泰さん、今日、お風呂に一緒に入ろ」
良心がとがめたのか、僕のもっとも弱いポイントを突いてきた。いつもなら嬉々として誘いに乗るのだが、今日はまずい。
この数日、風邪気味もあるが、娘におじいちゃんと思われた時に、一緒に風呂なんか入ったら、8歳の目は残酷にたるんだ贅肉や、体脂肪の付き具合をチェックするに違いない。
眉毛に生えた白髪さえ見逃さない娘のことだ。彼女の生物観察のモデルになるのは真っ平だ。
「泰さん、今日は風邪を引いてるから今度ね」
珍しく彼女はそれ以上、入浴を求めなかった。仕事場に戻ってじっと鏡を見る。
「な~にまだまだ大丈夫。まだまだ若い。インドに一緒に行ったディレクターが南川さんのタフさには驚いたと言ってたではないか」
そう呟きながら僕は鼻毛に混じった白髪を引き抜くのだった。





